NO.30世田谷の水と緑を歩く~国分寺崖線を巡って~
(2002年6/9 東京都世田谷区成城・喜多見地区)
梅雨の合間の暑い日。世田谷トラスト協会の小出仁志さんの案内で、成城駅をスタート。邸宅街を7~8分も歩くと急な下り坂が現れる。この崖地こそが、通称”ハケ”と呼ばれる「国分寺崖線」。多摩川の流れが武蔵野台地を削ってできた、立川から世田谷の等々力渓谷まで25km続く、高低差15~20mの河岸段丘の斜面林だ。ハケは、湧き水、雑木林、野鳥や水棲動物、珍しい草花の宝庫。
今回のコースは成城3丁目なかんだの坂市民緑地~お茶屋坂~元林野庁官舎裏の湧水地~大蔵3丁目公園(区内最大の湧水量、イチリンソウの群生地)~大蔵運動公園(ムクロジの林。サワガニがたくさん生息)~野川(ハケの湧水を起源とする川)~次太夫堀公園~喜多見不動(崖線の湧水と井戸水を使った滝)~成城4丁目神明の森みつ池特別保護区(ゲンジボタルの自生地)~入間町樹林地(キンラン、ギンランなど都会では貴重な植物が自生)~成城5丁目猪股庭園と、もりだくさん。その場その場でじっくり解説していただきながら、5~6時間かけて、歩いた。 湧き水の豊富な水量と清冽さ、雑木林の豊かな植生に感嘆する。大蔵、喜多見の町には広々とした畑が点在し、農家の庭先販売も珍しくない。向こうから一輪車にタマネギをどっさり乗せたおじいさんがやってくる。雑木林の木々の匂い、通り抜けていく風のやさしさ、崖線の上からは6月には珍しい富士山の眺め。ここが東京23区内で、住宅街の一角とは信じられない。一同、ムクロジの実を拾ったり、湧き水に手を浸したり、直販所で取立て野菜を買ったりと、強烈な日差しにもめげず、元気いっぱい。
お昼は次太夫堀公園で。古民家を移築し、江戸時代の世田谷の風景を再現している。
締めくくりには、成城5丁目の「猪股邸」を見学する。建築家吉田五十八氏が晩年設計した武家屋敷風数奇屋造りの住宅だ。開け放たれた居間から、純和風庭園を眺める至福のひと時。さわやかな風と、眼前に広がる柔らかな苔の緑(関東には珍しいスギゴケ)に、疲れも吹き飛ぶ。 今日一日で、都会の貴重な自然、野生の姿をたっぷり堪能することができた。こんな場所は希少だが、だからこそ、大切に守っていかなければならない。困難の中の、世田谷トラスト協会と住民の保存活動には、心から感心させられた。
★写真上から
大蔵運動公園にて/元林野庁官舎裏の湧き水/喜多見の庭先野菜販売/喜多見側から見た崖線の風景
○なお、9月23日(月・祝)に、「ハケを歩く」の第2弾として、二子玉川~岡本民家園周辺の散策を行います。