田舎の学校つれづれ

NO.30 風土と景観-ウィーン・カナリア諸島・イギリスを巡って

8月は30度を超す暑さが続く夏になりました。畑作業が辛いこの時期は、夏野菜の収穫が嬉しい時でもあります。路地で収穫する野菜は新鮮で甘く栄養価に富み、購入するものとは一味違います。
6月に15年ぶりの海外旅行へ出かけました。ウィーン・カナリア諸島・イギリス南部と移動のある旅でしたが、異なる気候と風土文化を感じてきました。ウィーンは昼間は30度を超す日が続いていましたが、夜は緑に囲まれているせいか涼しい風が吹いていました。建物と公園とからなる街並み、日本の各都市に比べてこじんまりしていて、高層のビルも少なく、落ち着く町です。ウィーンからフランスを南下し地中海・ジブラルタル海峡・モロッコを通過して、大西洋に浮かぶスペイン領カナリア諸島のラス・パルマスヘ。降り立ってすぐに、ここは砂漠地帯と感じさせる樹木と花々。赤っぽい地面。「ああ異国だ!」と。ヨーロッパのリゾート地として有名で、ウィーンからの飛行機はヴァカンスを楽しむ家族で満席でした。島にはコロンブスがアメリカ到達の旅に出る時に祝福を受けた教会があり、市が開かれていて、南国の果物が並んでいました。
ラス・パルマスからマドリッドへ、マドリッドからロンドンへ、上空から眺めるスペインは乾いた土地と所々の緑と小麦(?)畑、乾燥と痩せた大地を感じさせます。以前アンダルシアを巡った時も、車窓からの眺めは、岩肌の山とヤギと所々に生えるオリーブの木の景色でした。
ドーバー海峡を渡ると緑豊かな島が目に入ります。イギリスです。ロンドンから南部のイースト・サセックスへ。童話『くまのプーさん』の舞台の森(アッシュダウンフォレスト)近くにある貴族の館を改造したホテルに宿泊しました。広大な敷地と幽霊が出そうな古い館は、外観・骨格はそのままに、内部もできる限り手を加えずにホテル機能が成されていました。部屋に辿りつくまで、迷路のような廊下と階段を通ります。広い庭は良く手入れされ、一番美しい季節に入っていました。少し不便でも心地良い空間は、今まで体験しなかったものです。マナーハウスと呼ばれるこのような宿泊施設は、規模が異なってもイギリスの所々にあるそうです。日本で城や大名屋敷がホテルや旅館になっている話は、知りません。石造りの建物と木造の建物の違いがあるとしても、歴史ある日本建築が宿泊施設として活かされるのは難しかったのでしょうか?
ロンドンは、中心部を出ると、すぐに低層の家屋が庭に囲まれて同じ形態で並んでいます。住人は不便かもしれませんが、街の景観は美しく、歴史と文化にきちんと向き合うイギリスの姿勢が伺われます。日本はというと、東京郊外や地方都市どこに行っても同じ、駅の周りには高層ビルとマンション、利便性優先・無秩序な街並み。かつての地域の文化歴史と特性を活かす町作りがなされてこなかったことに、憤りを感じることがあります。行政・ゼネコンや地方建設業者、建築家は日本文化と美をどうとらえていたのでしょうか? 以前ほど無茶苦茶な開発・建築は少なくなったようですが、これからの我が国の景観マスタープランに期待したいです。
(2012年8月 田舎の学校代表 田中直枝)