NO.18「農業はブームでもファッションでもない」
昨年の暮れから世界中を駆け巡っている不況は、私たちの生活に影響を及ぼし始め、先の見えない社会に不安が広がっています。とにかく最低の食料だけは確保しなければという漠然とした思いからか、安全な食べ物を手にしたいという思いなのか、また、雇用がありそうなのは農林業など第一次産業ということなのか、「これからは農業だよね」という会話が聞かれます。渋谷のギャルが米作りに挑戦するとか、雑誌『BRUTUS』でも農業を取上げるなど、農関連の仕事をしてきた私には、本当に驚きです。国民が真剣に我が国の農業を考えるのは結構なことですが、景気が良くなればまた関心がなくなるというような、ブームで終って欲しくないですね。
整理しておきたいことは、農業は生業であり、人々の食料を担っているもので、天候などに左右されずにいかに安定して市場に供給できるかが重要になります。耕作放棄の田畑は増えるばかり、どれだけ農業が労働と収入とのバランスが悪く、それを補う有効な施策がとられてこなかった国の責任は大きいのです。一刻も早く、農業再生のための効果ある施策を望むところです。
市民の間でブームなのは「家庭菜園」。これは趣味の域で、家族や仲間のために野菜などを作る、それも食料のほんの一部でしかないわけですが、生物や環境を考える機会になり、農業への関心がさらに拡大することが考えられます。ファッションとして農業という言葉が踊り、家庭菜園が農業であるかのような錯覚を持って欲しくない。ただ、これが農業への理解、就農へと繋がれば素晴らしいことです。
この春から始まった「ゼロから始まる家庭菜園実習」には若い人たちが多数申し込まれ、一気に若返りました。嬉しいことですが、それだけ不安があるのでしょうか? 若者が、いきいきと農作業などで働いている姿が見たいと願っているのは、私だけではないでしょう。
桜の開花は、今年はさらに早まるかもしれません。「サクラサク」嬉しい季節がやってくることを願うばかりです。
(2009年2月 田舎の学校代表 田中直枝)