田舎の学校つれづれ

NO.8「「住む」の講座 京町家」

   「田舎の学校」の住環境を考える講座では、木の家や屋上緑化、ランドスケープなどの学習をしてきました。京都町衆の住居、町家を見学したく、京都を訪ねこの秋で3回目になります。何度訪れても京都の衣食住文化は奥深く、魅力に溢れています。
   戦後、日本の住居は庶民の間でも欧米型の生活と共に大きく変化してきました。畳の生活から床の生活へ、卓袱台がテーブルとイスになり、障子や襖が姿を消していきました。食生活の変化も大きいものでしたが、「住む」ことの変わり様は、生活文化の変革へ繋がりました。住居の中心はリビングキッチンになり、便利で明るくなりました。
   京町家は蛤御門の変(1864年)で京都の町が焼失した後に、戦前までの八〇年間に建築されたもので、京都の一千年の伝統と町衆の智恵をとりいれた住居です。私たちが見学してきた町家は表の棟(事業所部分)と奥の棟(住居部分)が一緒で、細長く続く土間(通り庭)のある表屋造りといわれるものです。高密度の都市の中で快適に、かつ安全に暮らすための工夫が随所に見られます。限られた敷地に中庭が配され、防災面では火事の延焼を防ぐために通り庭は吹き抜けになっており、境界は厚い土壁でできています。阪神大震災の時は建物被害がほとんどなかったそうです。今の建築法からいうと違法というのですが、私には合理性と伝統美を兼ね備えた優れた建物に見えます。
   一方、この町屋は暗くて大変寒い、段差が激しいなど、住んでいる人には苦労の多い家です。明るさと便利さからはかけ離れていて、その多くは姿を消しましたが、近頃は見直され修復保存の動きや、町家の良さを残しつつ快適に住む改築も盛んになっています。四季を大切にする京都で、町家では季節によって建具類を入れ替えます。祇園祭りまでには夏しつらえになり、襖や障子がはずされ簾や風通しの良い仕切り、網代の敷き物などに変わります。季節にそった生活は、私の育った時代と日本家屋の生活を思い出させてくれます。
(2006年8月 田舎の学校代表 田中直枝)