田舎の学校つれづれ

NO.22「江戸伝統野菜」

 日本では四季おりおりのおいしい野菜が食べられます。ハウス栽培や輸送の充実で雪国にも新鮮な野菜が届くようになりました。今私たちが食べている多くの野菜は性質の違う種を掛け合わせたF1と呼ばれる種から栽培されています。この種は病害虫に強く、形も安定し、栽培もしやすく安定した収量をえられるよう改良に改良を重ねた一代交配種です。農家は毎年この種を種苗会社から買って畑に播きます。
 一方で京野菜に代表される伝統野菜は、その品種から採種された種で栽培を行っています。地域の風土にあった野菜はF1の登場で多くが姿を消しましたが、京都、金沢、高山、山形など受け継がれて栽培されてきました。最近はそんな地域特有の伝統野菜を見直し復活させる活動も盛んになってきました。
 東京では江戸東京野菜の研究会を中心に活動をしていて、「田舎の学校」の家庭菜園実習講師の農家さんも栽培をしています。井口農園では練馬大根(タクワン用の細長い大根)・吉祥寺ウド、石井農園では馬込半白キュウリ(下半分が白くパリパリした食感で漬物に)、星野農園では寺島ナス(小ぶりナスで漬物に)、新しい教室の高橋農園ではコマツナ、亀戸大根、大蔵大根。皆さん東京の農業を支えている頼もしい方々です。
 また、旬野菜料理の酒井文子先生は江戸東京野菜を使った料理を研究し、イベントや講習会などで披露しています。店頭に並ぶおなじみの野菜はどれもおいしく、伝統野菜がより味がいいというわけではありませんが、F1の種は海外の広い隔離した場所で採種されるのに対し、伝統野菜は国内で採種されます。海外依存だけでなく国内での種の保存と採種、栽培は大切なことです。
 ところで江戸時代、武家屋敷には菜園があり、屋敷内の食料の一部をまかなっていましたが、市中の野菜の多くは江戸郊外で栽培されていました。舟や荷車で江戸市中に運ばれた後、振り売りの天秤に盛られて路地裏の町民へ届けられました。そのころ練馬区・世田谷区や小金井市はもちろん江戸郊外でした。江戸時代は人足たちが利用した一膳飯屋の他に料理屋や料亭なども盛んになり、料理の数も増え、食文化が一段と飛躍した時代でもありました。いろいろな時代小説に出てくる料理には現在の食卓の原型が見られます。「江戸東京講座」では、伝統野菜の漬物や武家屋敷の家庭菜園の光景を思い浮かべながら、町歩きを楽しんでいます。
(2010年2月 「田舎の学校」代表 田中直枝)